• 後天性血友病Aは凝固第VIII因子(FVIII)に対する自己抗体が出現し、皮下出血や筋肉内出血などの出血症状をきたす疾患で、重篤な出血症状により死亡する場合もある。
  • 凝固検査でPT正常、APTT延長、FVIII活性低下、VWF活性正常、FVIIIインヒビターが陽性の場合、後天性血友病Aと診断する。
  • 血腫形成をともなう症例においては、FDP、D-dimerの上昇を認めることがあるため、しばしば播種性血管内凝固(DIC)と誤診されることがあるが、DICとは異なり血小板、フィブリノゲンの減少やPTの延長は基本的に認めない。。
  • 止血治療は第VIII因子を経由せずに、主に外因系凝固因子を活性化させて凝固反応を促進するバイパス止血療法が主体である。
  • 2024年、遺伝子組換え型ブタ配列血液凝固第VIII因子製剤(商品名:オビザー®)が発売され、後天性血友病Aの止血治療に使用可能となった。
  • 後天性血友病Aの出血予防(止血治療ではない)には、FVIII機能代替二重特異抗体製剤エミシズマブ(商品名:ヘムライブラ®)の使用を考慮する。
  • バイパス止血療法に用いられる薬剤は、活性型プロトロンビン複合体製剤(aPCC 商品名:ファイバ静注用1000® 製造販売元:武田薬品工業株式会社)、遺伝子組み換え型活性化第VII因子(rFVIIa 商品名:ノボセブンHI静注用シリンジ® 製造販売元:ノボノルディスクファーマ株式会社)製剤、あるいは凝固第X因子加活性化第VII因子(FVIIa/X 商品名:バイクロット® 製造販売:KMバイオロジクス株式会社 プロモーション提携:一般社団法人日本血液製剤機構)製剤の3種類がある。各薬剤の止血効果の優劣を示すエビデンスはないため、いずれの薬剤を用いて止血管理を開始しても構わない。ただし、ヘムライブラ®による出血予防を開始した後は、原則ノボセブンHI®による止血管理が推奨される。
  • 後天性血友病Aの止血機能を正常化し、出血のリスクを除去するためには、免疫抑制療法によるインヒビターの抑制・根絶が必要である。免疫抑制療法は診断後直ちに開始することが推奨される。
  • インヒビターを除去するための免疫抑制療法により、大部分は寛解に至るが、一部の症例は出血症状あるいは免疫抑制療法に伴う感染症によって死亡することに留意する必要がある。
  • 後天性血友病Aの診断と治療については、日本血栓止血学会より2017年に「後天性血友病A診療ガイドライン 2017年改訂版 1)」が発行されている。
    https://www.jsth.org/publications/pdf/guideline/HP用_後天性血友病A診療ガイドライン2017改訂版.pdf
  • 後天性血友病Aには、治療の経済的負担を軽減するための難病医療費助成制度(指定難病288の自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の中に含まれる)があり、一定の要件を満たせば自己負担額が軽減される。制度を利用するには申請が必要なため、早めに医療ソーシャルワーカー(MSW)などに相談しておく必要がある。

疾患概要

 後天性血友病Aは、後天的に凝固第VIII因子(FVIII)に対する自己抗体(インヒビター)が生じることによって、FVIII活性が低下し、様々な出血症状をきたす疾患である。

 先天性の血友病でみられるインヒビター(同種抗体)とは特性が異なり、FIII:Cが測定可能(1%以上)であってもしばしば重篤な出血傾向を呈する。

 自己免疫疾患や悪性腫瘍、分娩、薬剤投与などの基礎疾患から発病する場合が多いが、一部は特に基礎疾患を有しない。発症年齢は50歳以上が90%近くを占め、60~70歳代での発症が最も多い。女性の場合はしばしば分娩後に発症するため、20~30歳代にもピークがあるが、全体の男女比には差はない。なお、高齢発症が多いため、病状の遷延が認知機能や日常生活動作(ADL)の低下に影響することに留意が必要である。

 一般的な後天性血友病Aの診断と治療に関しては、日本血栓止血学会より2017年に「後天性血友病A診療ガイドライン 2017年改訂版 1)」が発行されている。
https://www.jsth.org/publications/pdf/guideline/HP用_後天性血友病A診療ガイドライン2017改訂版.pdf

また、後天性血友病Aは難病(指定難病288の自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の一つ)に指定されており、それぞれ難病情報センター(https://www.nanbyou.or.jp/entry/4649)のWebサイトにも診断・治療に関する詳細な情報が記載されている。

主要症状

 出血は皮下出血と筋肉内出血の頻度が高く、時に消化管出血、手術後・産後出血、腹腔内出血、頭蓋内出血などの重篤な出血症状をきたす。特に皮下出血は最も頻度が高く、打撲部や採血・注射部位に生じやすい。皮下出血や筋肉内出血は、しばしば広範でなかなか消退せず、重度の貧血を伴うこともある。一方、先天性の血友病の出血症状として最も頻度が高い関節内出血は、後天性血友病Aにおいては比較的少ない。出血以外の症状は特にない。

救急搬送される可能性と搬送原因

 後天性血友病Aは発症時に重篤な出血症状をきたす場合が多いため、初発時に救急医療機関に搬送されて診断・治療を受ける例が多い。逆に診断後は入院加療によって病状が改善する症例が多いため、退院後に本疾患の出血症状が原因で再搬送される可能性は低い。

診断

 突然の出血症状があり、血小板数、PT、フィブリノゲンが正常で、APTTが延長、さらに第VIII因子活性(FVIII:C)の低下を認めた場合は本症を疑い、VWF活性が正常、FVIIIインヒビターが1ベセスダ単位(BU)/mL以上の場合、後天性血友病Aと診断する(図6)。FVIII:Cやインヒビター力価の結果を得るまでに時間を要する場合は、APTTクロスミキシング試験によって、APTT延長の原因が凝固因子の欠乏によるものか、凝固インヒビターによるものかを鑑別することができる。(図2参照)

 また、血腫形成をともなう症例においては、血腫内で凝固反応によってFDP、D-dimerの上昇を認めることがあるため、しばしば播種性血管内凝固(DIC)と誤診されることがあるが、本疾患では基本的に血小板、フィブリノゲンの減少やPTの延長を認めない。

 なお、後天性血友病Aは自己免疫疾患や悪性腫瘍、分娩、薬剤投与などの基礎疾患を有する場合が多いため、後天性血友病Aを診断した場合は、これらの基礎疾患のスクリーニングも必要になる。

  FVIII活性 FVIIIインヒビター VWF活性 APTTミキシング
後天性血友病A 低下 陽性 正常
  • 即時反応:補正される、あるいは直線的
  • 遅延反応:補正されず、混合直後よりも上に凸が増強される
先天性血友病A 低下 陰性 正常
  • 即時反応:容易に補正される、
  • 遅延反応:容易に補正される
先天性VWD
あるいは
後天性VWS
低下 陰性 低下  
Lupus Anticoagulant 正常ないし
見かけ上低下*
陰性ないし
偽陽性*
低下なし
  • 即時反応:直線的、あるいは補正されない
  • 遅延反応:即時反応と同様な結果
図6.後天性血友病Aの診断
* ループスアンチコアグラントでは凝血学的検査の特性上、
見かけ上のFVIII活性低下やインヒビター偽陽性がみられることがある。