• 免疫性血小板減少症(ITP)は、血小板膜蛋白に対する自己抗体が発現し、血小板の破壊が亢進することによって血小板減少を来す自己免疫性疾患である。
  • ITPにおいて一般的に皮下出血などの出血症状が明らかになるのは、血小板数5万/µL以下である。皮下出血以外の口腔内出血、鼻出血、下血、血尿などは、血小板数が1万/µL以下に減少した例で認められることが多い。
  • 救急搬送を必要とするような重篤な出血症状を発症する例は比較的少ないが、血小板著減例では頭蓋内出血や消化管出血など重篤な臓器出血をきたすことがある。また血小板数が低値の慢性ITP患者が何らかの外傷、疾病などによって救急搬送され、その一部に出血症状が合併している場合がある。
  • ITPには疾患特異的な診断法がなく、基本的には除外診断となる。
  • 一般的なITPの診断と治療については、厚生労働省難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班から「成人特発性血小板減少性紫斑病の参照ガイド2019年改定版」が発行されている。
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/60/8/60_877/_pdf/-char/ja
  • 重篤な出血や観血的処置時には、迅速に血小板数を回復させるためにメチルプレドニゾロンパルス療法、免疫グロブリン大量療法、血小板輸血、およびこれらの併用療法が用いられる。
  • 免疫グロブリン大量療法は、完全分子型免疫グロブリン400mg/kg/dayを5日間連続して点滴静注する。メチルプレドニゾロンパルス療法は、1g/dayを3日間連続して点滴静注する。血小板輸血は10~20単位の濃厚血小板製剤を投与する。
  • 血小板輸血は、血小板が減少する血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)やヘパリン起因性血小板減少症(HIT)においては、血栓症状を増悪させるため禁忌である。したがって、溶血所見(ビリルビンやLDHの上昇と貧血)の合併などTTPを疑う所見がある場合は、血小板輸血を安易に実施するべきではない。
  • これらの急性期治療は、おおむね効果が一過性であるため、引きつづいて経口プレドニゾロンを用いた維持療法を実施する。
  • 出血症状が軽微、あるいは無症状の場合、ヘリコバクター・ピロリ感染があれば除菌療法を実施する。ヘリコバクター・ピロリ感染がない場合、あるいは除菌によっても血小板数が2~3万/µL以上に回復しない場合は、まず副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン0.5~1mg/kg/day)を用いた治療を開始する。

疾患概要

 免疫性血小板減少症は、血小板膜蛋白に対する自己抗体が発現し、血小板に結合する結果、主として脾臓における網内系細胞での血小板の破壊が亢進し、血小板減少を来す自己免疫性疾患である。以前は特発性血小板減少性紫斑病と呼ばれていたが、最近は免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia:ITP)と呼ばれることが多い。

 血小板減少をきたし得る他の原因や疾患が存在しないprimary ITPと、薬剤や全身性エリテマトーデス(SLE)など何らかの原因により免疫的な血小板減少をきたしているsecondary ITPに分類され、以前特発性血小板減少性紫斑病と呼ばれていた疾患は、primary ITPに該当する。

主要症状

 症状は出血症状であり、主として皮下出血(点状出血又は紫斑)を認める。出血症状は何ら誘因がなく起こることが多く、軽微な外力によって出血しやすい。一般的に出血傾向が明らかになるのは、血小板数5万/µL以下である。皮下出血以外の口腔内出血、鼻出血、下血、血尿などは、血小板数が1万/µL以下に減少した例で認められることが多く、成人の1%程度、小児の0.4%程度において、致命的な脳出血も生じる。

 ITPには発症後半年~1年以内に自然寛解する急性型と、血小板減少が持続もしくは継続的な治療が必要である慢性型がある。しかし、急性型かどうかは後方視的にしか判断できないため、最近は新規診断ITP(診断後3ヶ月以内)、持続性ITP(3~12ヶ月)、慢性ITP(12ヶ月以上))の3つに分類されている。

救急搬送される可能性と搬送原因

 ITPは点状出血又は紫斑が出現し、医療機関での検査で血小板減少を指摘されて診断される例が多く、初発時に救急搬送を必要とするような重篤な出血症状を発症する例は少ない。一方、成人ITPの多くは慢性ITPであり、その治療目標は重篤な出血を予防しうる血小板数(3万/µL以上)を維持することであるため、血小板数が低値の慢性ITP患者が何らかの外傷、疾病などによって救急搬送され、その一部に出血症状が合併している場合がある。

診断 1)

 ITPには疾患特異的な診断法がなく、基本的には除外診断となる。すなわち、血小板減少は認めるが、赤血球系の異常(鉄欠乏性貧血や急性出血による貧血を除く)および白血球系の異常がなく、凝固系異常や血小板減少きたす他の疾患(表9)も除外できる場合にITPと診断する。ITPと既に診断されている例を除き、緊急時にこれらの鑑別診断をすべて実施するのは困難であるが、可能な範囲で他の疾患を除外する。

表9.血小板減少の原因
血小板減少の原因 主な疾患
産生障害 骨髄造血器腫瘍、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、薬剤性骨髄抑制、先天性産生不全
破壊 免疫性血小板減少症(primary ITP、secondary ITP)
消費亢進 播種性血管内凝固、血栓性血小板減少性紫斑病、血栓性微小血管症障害症、ヘパリン起因性血小板減少症
分布異常 脾機能亢進
喪失・希釈 大量出血

 問診では、出血症状の経過、先行感染の有無、合併症や家族歴、服薬歴を確認する。

 検査所見では、全血算(CBC)および凝固系検査、生化学検査とともに、可能な限り迅速に末梢血塗抹標本を確認し、血小板凝集、異常細胞、破砕赤血球の有無を確認する。血小板凝集が存在する場合は、採血不良やEDTA依存性血小板減少を考え、CBCの再検、ヘパリンあるいはクエン酸採血での血小板数を確認する。

 破砕赤血球の確認は、止血治療に血小板輸血を使用可能(ITP)か、禁忌(血栓性血小板減少性紫斑病:TTP)かを判断する材料となるため、特に重要である。溶血所見の合併などTTPを疑う所見がある場合には、積極的にADAMTS13活性を測定する。

 また、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)も同様に血小板輸血が禁忌であるため、ヘパリン使用の有無についても確認が必要である。

 一部の自動血球測定器では網状赤血球とともに幼若血小板の比率(IPF%)を測定できるため、IPF%よって骨髄における血小板産生の低下(IPF%低下)と血小板の消費あるいは破壊亢進(IPF%増加)の鑑別ができる場合があり、診断の参考となる。

 これらに加え、腹部超音波検査やCTなどにより脾腫の有無を確認する。

 骨髄検査については、ITPに特徴的な所見はないため、他の血球に異常がなければ、救急医療現場で早急に実施する必要はない。ヘリコバクター・ピロリ感染がある場合に、これを除菌することによって軽快するITPもあるが、血小板数の回復には時間がかかるため、これついての検査や治療も、出血症状が落ち着いてからで構わない。

 なお、一般的なITPの診断と治療に関しては、厚生労働省難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班から「成人特発性血小板減少性紫斑病の参照ガイド2019年改定版 1)」が発行されている。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/60/8/60_877/_article/-char/ja/

 また、ITPは小児慢性特定疾病および難病に指定されており、それぞれ小児慢性特定疾病情報センター(https://www.shouman.jp/disease/details/09_13_023/)および難病情報センター(https://www.nanbyou.or.jp/entry/157)のWebサイトにも診断・治療に関する詳細な情報が記載されている。