• 血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)は、von Willebrand因子(VWF)切断酵素であるADAMTS13が10%未満に低下することによって発症する疾患である。
  • 以前は血小板減少、微小血管症性溶血性貧血、腎機能障害、発熱、動揺性精神神経障害の古典的5徴候で診断されていたが、これらの5徴候がすべてそろう症例は10%未満と非常に少なく、血小板減少と溶血性貧血のみの症例も存在する。
  • 先天性と後天性があり、先天性はADAMTS13遺伝子異常により、後天性はADAMTS13に対する自己抗体が産生されることにより発症する。
  • 血小板減少および、正球性貧血、間接ビリルビン、LDH、網状赤血球の上昇、ハプトグロビンの著減などの溶血性貧血の所見を認める場合は、腎機能障害、発熱、動揺性精神神経障害などの症状がなくてもTTPを疑い、ADAMTS13活性を測定する。随伴症状や検査所見から考え、TTPの疑いが強い場合は、ADAMTS13活性とともにADAMTS13インヒビターを測定する。
  • 鑑別診断としては、播種性血管内凝固(DIC)、志賀毒素産生大腸菌(Shiga toxin producing E. coli : STEC)感染による溶血性尿毒症症候群(STEC HUS)、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と免疫性血小板減少症(ITP)の合併(Evans症候群)などが重要である。
  • 一般的なTTPの診断と治療に関しては、厚生労働省難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班から「血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療ガイド 2023」が発行されている。
    https://ketsuekigyoko.org/guideline/
  • TTPは基本的に血栓性疾患であり、血小板が著減していても、重篤な出血症状を発症することは少ない。出血症状を予防する目的で血小板輸血を実施すると、血栓による臓器障害がさらに増悪し、予後の悪化につながるため、血小板輸血は致死的な出血がある場合を除いて禁忌である。
  • 後天性TTPには、血漿交換(ADAMTS13インヒビターと超高分子量VWF重合体の除去、および欠乏しているADAMTS13の補充)による微小血栓形成の抑制と、免疫抑制療法によるADAMTS13インヒビターの抑制・根絶の2つの治療が必要である。
  • 後天性TTPの微小血栓形成に対する治療の中心は血漿交換で、新鮮凍結血漿(FFP)50〜75mL/kgを置換液として、1日1回連日、血小板数が正常化(15万/μL以上)して2日後まで施行する。
  • ADAMTS13インヒビターの産生を抑制するために、ステロイドパルス療法、または経口ステロイド療法を実施する。ステロイドパルス療法にはメチルプレドニゾロンが用いられ、1,000mg/dayを3日間投与し、その後はステロイド量を減量する。経口ステロイド内服療法は、プレドニゾロン1mg/dayを開始し、2週間継続した後から0.5mg/kg/dayまで比較的急速に減量する。
  • 難治例(血漿交換を5回以上行っても血小板数が5万/μL以上に回復しない場合、もしくは15万/μL以上に回復しても再度血小板数が5万/μL未満に低下した場合)あるいは再発例には、リツキサン®375mg/m2を1週間に1回の頻度で合計4回投与する。

疾患概要

 血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)は、血小板減少と溶血性貧血に、腎障害や脳神経障害などの臓器障害を合併する疾患群である血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy : TMA)の中で、von Willebrand因子(VWF)切断酵素であるa disintegrin-like metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13(ADAMTS13)が10%未満に低下することによって発症する疾患である。

 以前は、①消耗性血小板減少、②微小血管症性溶血性貧血、③腎機能障害、④発熱、⑤動揺性精神神経障害の古典的5徴候で診断されていたが、実際にこれらの5徴候がすべてそろう症例は,後天性TTP全体の10%未満 1) と非常に少なく、消耗性血小板減少と微小血管症性溶血性貧血のみの症例も存在する。

 先天性と後天性があり、先天性はADAMTS13遺伝子異常により、後天性はADAMTS13に対する自己抗体(ADAMTS13インヒビター)が産生されることにより発症する。さらに後天性TTPは基礎疾患を認めない後天性原発性TTPと、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患やチクロピジンなどの薬剤に関連してADAMTS13に対する自己抗体が産生される後天性二次性TTPに分類される。

 先天性TTPは非常にまれな疾患であるため、本診療ガイドでは後天性TTPについてのみ解説する。

主要症状

 TTPではADAMTS13が低下することにより、血管内皮細胞で産生された非常に大きな分子量の超高分子量VWF重合体(unusually large VWF multimers: UL VWFM)の切断ができなくなり、これが血小板と過剰に結合して血小板血栓を形成する。血栓形成部位を通過する際に赤血球は機械的に破壊され溶血する。また、血小板血栓が腎臓や脳などの血流を阻害することにより、種々の臓器障害が発症する。

 体のだるさ、吐き気、筋肉痛などが先行し、発熱、貧血、出血(手足に紫斑)、精神神経症状、腎障害が起こる。発熱は38℃前後で、ときに40℃を超えることもあり、中等度ないし高度の貧血を認め、軽度の黄疸を伴うこともある。精神神経症状として、頭痛、意識障害、錯乱、麻痺、失語、知覚障害、視力障害、痙攣などが認められる。血尿、蛋白尿を認め、まれに腎不全になる場合もある。

 血小板減少は、1-3万/μLの症例が多く、皮下出血や粘膜出血を発症する場合もあるが、本疾患は基本的には血栓性疾患であり、重篤な出血症状をきたす症例は少ない。溶血性貧血はヘモグロビンが、8-10g/dLの症例が多く、直接クームス試験が陰性で、しばしば破砕赤血球の出現を認める。ただし、破砕赤血球は定量化が困難で、TTPでも認めないことがあるため、重要視しすぎてはいけない。

 腎機能障害は、尿潜血や尿蛋白陽性のみの軽度のものから、血清クレアチニンが上昇する症例まで様々であるが、血清クレアチニンは2mg/dL未満であることが多い。溶血性貧血と血小板減少に、血液透析を必要とする重症の急性腎不全を合併している場合は溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome:HUS)が疑われる。

 これらの5徴候以外に、消化管の血流障害による腹痛や、心筋虚血による胸痛、不整脈が見られる場合もある。

救急搬送される可能性と搬送原因

 後天性TTPは発症時、血小板減少と溶血性貧血のみの段階で救急医療機関に搬送されることは少ないが、発熱、意識障害を合併した場合にはしばしば搬送され、そこで診断・治療されることが多い。入院後の血漿交換療法と免疫抑制療法により、多くは病状が改善し退院となる。退院後は外来で免疫抑制療法の継続・漸減・中止が行われるため、通院加療中の後天性TTP患者がTTPの症状で搬送されることは少ない。

診断

 血小板減少および、正球性貧血、間接ビリルビン、LDH、網状赤血球の上昇、ハプトグロビンの著減などの溶血性貧血の所見を認める場合は、腎機能障害、発熱、動揺性精神神経障害などの症状がなくてもTTPを疑い、ADAMTS13活性を測定する。随伴症状や検査所見から考え、TTPの疑いが強い場合は、ADAMTS13活性とともにADAMTS13インヒビターを測定する。(図5)

 鑑別診断としては、播種性血管内凝固(DIC)、志賀毒素産生大腸菌(Shiga toxin producing E. coli : STEC)感染による溶血性尿毒症症候群(STEC HUS)、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と免疫性血小板減少症(ITP)の合併(Evans症候群)などが重要である。TTPが疑われる場合には、これらを否定するためにプロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリノゲン量、フィブリン分解産物(FDP・D-dimer)、アンチトロンビンなどのDIC関連検査、便培養検査・志賀毒素直接検出法(EIA)、抗LPS(エンドトキシン)IgM抗体などのSTEC関連検査、及びクームス試験などのAIHAに関連検査を併せて実施する。

 TTPでは凝固系の活性化があまり起こらないため、DICで認められるPT、APTTの延長、フィブリノゲンやアンチトロンビンの低下等は認められず、FDP、D-dimerの上昇も軽度にとどまることが多い。DIC、STEC感染、Evans症候群などが否定的であれば、後天性TTPの可能性がより高くなり、最終的にADAMTS13活性が10%未満に著減していればTTPと診断される。さらにADAMTS13インヒビターが陽性であれば後天性TTPと診断される。

図5.血栓性血小板減少性紫斑病の診断
  1. ※1
    鑑別診断のための検査
    • DIC関連検査:PT、APTT、フィブリノゲン量、フィブリン分解産物(FDP・D-dimer)、アンチトロンビン
    • 志賀毒素産生大腸菌関連検査:便培養検査・志賀毒素直接検出法(EIA)、抗LPS(エンドトキシン)IgM抗体
    • 自己免疫性溶血性貧血関連検査:直接・間接クームス試験
  2. ※2
    腎機能障害、発熱、動揺性精神神経障害などの随伴症状があり、TTPの疑いが強い場合は、ADAMTS13活性と同時に測定する。
  3. ※3
    先天性TTPの確定診断には遺伝子解析が必要

 なお、後天性TTPは心筋虚血により突然死をきたす可能性があるため、診断時には心筋トロポニンも併せて測定しておく。

 一般的なTTPの診断と治療に関しては、厚生労働省難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班から「血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療ガイド 2023」が発行されている。
https://ketsuekigyoko.org/guideline/

 また、TTPは難病(指定難病64)に指定されており、それぞれ難病情報センター(https://www.nanbyou.or.jp/entry/246)のWebサイトにも診断・治療に関する詳細な情報が記載されている。