インヒビターのない血友病に対する止血治療(総論)1)
インヒビターのない血友病に対する止血治療(および観血的処置の出血予防)は、FVIII(FIX)製剤の補充療法が基本である。FVIII(FIX)製剤を静脈注射により、凝固因子活性を100%(以上)に上昇させることが可能であり、健常人と同様の止血機能を(製剤投与中は)維持させることが可能である。したがって、大出血や大手術においても健常人と同様の治療・処置が可能となる。
比較的軽症の出血や侵襲の少ない処置の場合にはFVIII(FIX)活性を20~40%に、中等症の出血あるいはやや侵襲強い処置の場合は40~80%に、重症の出血や侵襲の大きな処置の場合は80~100%(以上)に上昇させる量のFVIII(FIX)製剤を投与する。(表2、3参照)
出血 |
目標 |
出血 |
体重当たりの |
|
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血友病A (第VIII因子製剤) |
血友病B (第IX因子製剤) |
|||
軽症 | 20-40% |
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10-20単位 | 20-40単位 |
中等症 | 40-80% |
|
20-40 |
40-80 |
重症 | 80%以上 |
|
40-50 |
80-100 |
100%以上 |
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50 |
100 |
手術・ |
目標ピーク 因子レベル |
追加輸注の |
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歯科治療 抜糸や切開を |
原則不要。止血困難時 20~40% 50~80% |
止血困難であれば, |
抜糸,または切開を伴う場合 | 処置直前に1回のみ。 |
|
理学療法前 | 20~40% | 実施前に1回のみ。 |
関節窄刺 | 20~40% | 必要に応じて |
腰椎窄刺 | 50~80% | 12~24時間おきに |
上部・下部消化管内視鏡検査と生検 | 50~80% | 生検など, |
肝生検 | 60~80% | 必要に応じて |
動脈血ガス |
20~40% | 必要に |
ポート設置 | 80%以上 | 必要に応じてトラフ因子レベルを80%以上に保つよう3~5日間。 |
心臓カテーテル, |
60~80% | 必要に応じて |
扁桃腺切除術 | 80%以上 | トラフ因子レベルを |
結石超音波破砕術 | 60~80% | 症状に応じて |
関節手術 | 100%以上 | トラフ因子レベルを |
開腹・ |
100%以上 | トラフ因子レベルを |
開心・ |
100%以上 | トラフ因子レベルを |
なお、短期的にFVIII(FIX)活性が100%以上になったとしても、すぐに血栓症のリスクが増加するわけではない。
実際の製剤の使用に関しては、バイアルの含有量が決まっているので、これらをうまく組み合わせ、全量を無駄なく輸注できるよう工夫する必要がある。
治療に使用する製剤(表4)は、患者が普段から使用しているものを引き続き使用する方が望ましいが、同じ製剤が入手できない場合、もし院内に他のFVIII(FIX)製剤があれば、それを使用して治療を開始する。
製剤 | 商品名 | 一般名 | 販売会社 |
---|---|---|---|
半減期標準型 凝固第VIII因子製剤 |
クロスエイトMC® | 乾燥濃縮人血液 凝固第VIII因子 |
日本血液製剤機構 |
コンコエイト−HT®※ | |||
コンファクトF®※ | |||
アドベイト® | ルリオクトコグ |
武田薬品工業 | |
コバールトリイ® | オクトコグ |
バイエル薬品 | |
ノボエイト® | ツロクトコグ |
ノボノルディスクファーマ | |
ヌーイック® | シモクトコグ |
藤本製薬 | |
半減期延長型 凝固第VIII因子製剤 |
イロクテイト® | エフラロクトコグ |
サノフィ |
アディノベイト® | ルリオクトコグ |
武田薬品工業 | |
ジビイ® | ダモクトコグ |
バイエル薬品 | |
イスパロクト® | ツロクトコグ |
ノボノルディスクファーマ | |
エイフスチラ® | ロノクトコグ |
CSLベーリング | |
オルツビーオ® | エフアネソクトコグ |
サノフィ | |
半減期標準型 凝固第IX因子製剤 |
クリスマシンM® | 乾燥濃縮人血液 凝固第IX因子 |
日本血液製剤機構 |
ノバクトM® | KMバイオロジクス | ||
PPSB−HT 「ニチヤク」®※※ |
乾燥人血液凝固 第IX因子複合体 |
日本製薬 | |
ベネフィクス® | ノナコグ |
ファイザー | |
半減期延長型 凝固第IX因子製剤 |
オルプロリクス® | エフトレノナコグ |
サノフィ |
イデルビオン® | アルブトレペノナコグ |
CSLベーリング | |
レフィキシア® | ノナコグベータペゴル | ノボノルディスクファーマ |
- ※コンコエイト−HT®、コンファクトF®:von Willebrand因子含有第VIII因子製剤
- ※※PPSB−HT「ニチヤク」:第II因子、第VII因子、第X因子を含有するプロトロンビン複合体製剤
FVIII(FIX)製剤による止血治療効果のモニタリングは、APTT及びFVIII(FIX)活性を用いて行う。FVIII(FIX)活性の測定は多くの施設が受託検査会社に外注しており、結果が返却されるまで時間を要するが、FVIII(FIX)活性が50%を超えるとAPTTは正常範囲となる場合が多いため、APTTのモニタリングだけでは止血機能の評価が不十分である。したがって、通常の止血モニタリングとしてAPTTを測定しつつ、適時FVIII(FIX)活性を測定し、製剤投与量を調節することが重要である。
大出血の場合は、FVIII(FIX)以外の凝固因子も消費性(希釈性)に低下する可能性があるため、PT、フィブリノゲン値なども定期的に測定し、必要に応じて新鮮凍結血漿などで他の凝固因子も補充する。また、PTやAPTTに反映されない第XIII因子も消費性に低下するため、適時測定し、必要に応じて第XIII因子製剤の補充を行う。
インヒビターのない血友病A(ヘムライブラ®非使用例)1)
インヒビターのない血友病Aに対して、表2、表3に準じたFVIII製剤の補充療法を行うにあたり、目標因子活性を達成するために必要な投与量は下記の式で計算される。
FVIII必要量(IU)
=(FVIII活性の目標レベル(%)―FVIII活性のベースラインレベル(%))×体重÷2
上記計算式で算出した場合、FVIII製剤を10~20単位/kg投与すればFVIII活性は20~40%上昇し、20~40単位/kg投与すれば40~80%、40~60単位/kg投与すれば80~120%上昇することになる。なお、止血治療に半減期標準型FVIII製剤を使用する場合も、半減期延長型FVIII製剤を使用する場合も、初回の投与量は基本的に同じである。
半減期標準型FVIII製剤の半減期は8~10時間程度(半減期延長製剤では15~20時間程度)であるため、中等度以上の出血症状の場合は、FVIII製剤を初回投与後、止血の維持のために一定の期間12~24時間毎に繰り返し投与(連続投与)する必要がある。
最近ではFVIIIの半減期を延長させた製剤が普及しており、これらの半減期はいずれの製剤も約15~20時間程度である。「インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版」においては、半減期標準型製剤を用いた場合の止血治療について記載されているため、半減期延長型FVIII製剤を使用する場合は、薬剤の添付文書を参照の上、連続投与の間隔を調整する必要がある。
重症の出血や手術時など、凝固因子活性を長期間高値に安定させる必要がある場合には、シリンジポンプを用いてFVIII製剤を持続投与する方法もある。半減期標準型FVIII製剤を用いて持続投与を実施する場合は、まず目標因子活性までボーラス投与でFVIII製剤を輸注し、直後から4単位/kg/hrで持続投与を実施する。厳密には個々の症例により、FVIIIの上昇値や半減期が異なるため、初回投与直後、および連続投与・持続投与中には適時これらを測定し、出血の状況に応じた因子活性が得られているかを確認した上で、投与量を調整する必要がある。
半減期延長型FVIII製剤の持続投与については、現状では標準的な投与量の目安がないため、個々の症例にその製剤を使用した場合の上昇値および半減期があらかじめ確認されている場合にのみ、そのデータを基に持続投与の量を調整して実施することが望ましい。