治療
後天性TTPには、血漿交換(ADAMTS13インヒビターと超高分子量VWF重合体の除去、および欠乏しているADAMTS13の補充)による微小血栓形成の抑制と、免疫抑制療法によるADAMTS13インヒビターの抑制・根絶の2つの治療が必要である。
1)微小血栓形成の抑制
①血漿交換療法
後天性TTPの微小血栓形成に対する治療の中心は血漿交換で、新鮮凍結血漿(FFP)50〜75mL/kgを置換液として、1日1回連日、血小板数が正常化(15万/μL以上)して2日後まで施行する。FFPによる血漿交換の意義は、ADAMTS13インヒビター、およびUL VWFMの除去と、欠乏しているADAMTS13を補充することにあるため、ADAMTS13の補充ができないアルブミンを置換液として使用してはならない。
血漿交換によって後天性TTPの予後は大幅に改善され、80%前後の生存率が得られるようになったが、一部は急性期に致死的な転機を取るため、血漿交換を可能な限り早く開始することが望ましい。しかしながら、後天性TTPの確定診断に必要なADAMTS13活性およびADAMTS13インヒビターは、大部分の施設が外注検査会社で実施しており、検査結果が返却されるまでには時間を要する。このため、血小板減少と溶血性貧血に腎障害や脳神経障害などの臓器障害を合併している場合(臨床的にTMAを疑う場合)、その原因がADAMTS13活性の低下によるものかを予測する手段として、PLSMIC score、あるいはFrench scoreが開発されている 3)。(表11)
指標 | PLSMIC score | French score | ||
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血小板数 | <3万/μL | 1点 | <3万/μL | 1点 |
血清 |
<2.0mg/dL | 1点 | <2.26mg/dL | 1点 |
溶血
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1点 | ※ | |
最近の |
なし | 1点 | ※ | |
臓器・ |
なし | 1点 | ※ | |
PT-INR | <1.5 | 1点 | ※ | |
MCV | <90fL | 1点 | 評価 |
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ADAMTS13<10% |
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※French scoreは、溶血と破砕赤血球を認める血栓性微小血管症(TMA)があり、関連する癌、移植、播種性血管内凝固がない患者に使用することを前提としているため、点数はついていない。
これらのscoreは、TMA症例においてADAMTS13関連検査の結果を待たずに血漿交換を開始するかを判断する材料として使用しても良いが、これらによってTTPの診断が確定するわけではない。
なお、TTPは基本的に血栓性疾患であり、血小板が著減していても、重篤な出血症状を発症することは少ない。出血症状を予防する目的で血小板輸血を実施すると、血栓による臓器障害がさらに増悪し、予後の悪化につながるため、血小板輸血は致死的な出血がある場合を除いて禁忌である。したがって、血小板減少と溶血性貧血の合併を認める症例に対しては、TTPの可能性が否定されるまで、安易な血小板輸血を実施しないことが重要である。
②カプラシズマブ(商品名:カブリビ®)
カブリビ®は、2022年12月23日に我が国で販売が開始されたVWFのA1ドメインに結合する抗体製剤で、VWFによる血小板の粘着、凝集を阻害する薬剤である。この作用により、ADAMTS13の欠乏によって生じたUL VWFMと血小板との結合が阻害され、TTPにおける血栓形成が抑制される。
後天性TTPの急性期に使用し、血漿交換開始の15分前までに10mgを静脈内投与、血漿交換終了後に10mgを皮下投与する。(投与開始は初回の血漿交換前でなくても構わないが、できる限り早期に開始する)その後の血漿交換期間中は、血漿交換終了後に1日1回10mgを皮下投与する。血漿交換期間後は、1日1回10mgを30日間皮下投与する。
「血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療ガイド 2023」においては、血漿交換とともに推奨度1Aで推奨されている。
急性期の血栓形成を抑制するために用いる薬剤であるため、血漿交換によって血小板数が回復した後(血栓形成が沈静化した後)から、本薬剤の投与を開始する意義は少ない。
カブリビ®の投与により、血小板数の回復までの期間が短縮し、血漿交換の回数が減少するため、入院期間は短縮する。また、TTPに関連する死亡、TTPの増悪や難治性となる割合、および血栓性有害事象が減少する 4)。本薬剤の有害事象は、主に注射部位の局所反応であるが、VWFによる血小板粘着・凝集を抑制する作用があるため、皮下粘膜出血のリスクが増加する可能性が指摘されている。
また、本薬剤はADAMTS13活性が低値でも血小板数を回復させる作用があるため、血小板数の回復を指標に投与を中止すると、ADAMTS13活性が回復していなければTTPが再燃する可能性がある。したがって、投与を中止する際には、ADAMTS13活性の回復を確認しておく必要がある。
2)ADAMTS13インヒビターの抑制・根絶
後天性TTPの治療は、血漿交換とともに免疫抑制療法を開始し、自己抗体であるADAMTS13インヒビターの産生を抑制することによって、ADAMTS13活性を回復・維持させる必要がある。
①ステロイド療法
ステロイドパルス療法、または経口ステロイド療法が使用されているが、どちらが優れているかは明らかではない。
ステロイドパルス療法にはメチルプレドニゾロンが用いられ、1,000mg/dayを3日間投与し、その後はステロイド量を減量する。ステロイドの減量法については明確な科学的根拠は存在しないが、数日間メチルプレドニゾロンの点滴を減量しながら継続し、経口ステロイド(プレドニゾロン)0.5−mg/kg/dayへと切り替える。
経口ステロイド内服療法は、プレドニゾロン1mg/dayを開始し、2週間継続した後から0.5mg/kg/dayまで比較的急速に減量する。それ以降の減量は2.5~5mg/週程度を目安に行うが、血小板数やADAMTS13活性・ADAMTS13インヒビター力価を参考に減量する。
②リツキシマブ(商品名:リツキサン®)
リツキシマブ(商品名:リツキサン®)は、CD20に対するモノクローナル抗体であり、体内のBリンパ球を減らすことでADAMTS13インヒビターの産生を抑制する。現状では、難治例(血漿交換を5回以上行っても血小板数が5万/μL以上に回復しない場合、もしくは15万/μL以上に回復しても再度血小板数が5万/μL未満に低下した場合)あるいは再発例を中心に使用することが推奨される。
リツキサン®は375mg/m2を1週間に1回の頻度で合計4回投与する。投与によりインフュージョンリアクション(発熱、血圧低下、蕁麻疹、低酸素血症など)などの重篤な副作用が生じることがある(特に初回投与時)ので、前投薬(抗ヒスタミン薬、アセトアミノフェン)を処方し、輸液ポンプにて徐々に投与速度を上げる。血漿交換と併用する場合には、血漿交換実施後に投与する。
③その他の免疫抑制療法
難治例、早期再発例に対して、シクロフォスファミド、ビンクリスチン、シクロスポリンなどの有効性が一部に報告されている。