• 血友病は、血液凝固第VIIIIX)因子の量的、質的欠乏に基づく遺伝性出血性疾患で、第VIII因子欠乏症が血友病A、第IX因子欠乏症が血友病Bである。
  • 特に誘因のない自然出血によって救急医療機関に搬送される可能性は少ないが、腸腰筋出血や気道周囲(咽頭や喉頭など)の出血は、入院にて十分な止血治療を実施する必要がある。
  • 救急搬送される可能性がある出血症状としては、脳出血、食道静脈瘤や他の消化管疾患からの消化管出血、あるいは大きな外傷による出血、医療機関での観血的処置後の止血困難などが考えられる。
  • 血友病の出血・観血的処置時の止血治療の基本は、第VIIIIX)因子製剤を静脈注射し、欠乏した因子の補充を行うことである(補充療法)。ただし、インヒビター保有例に対しては、これらの第VIIIIX)因子製剤は無効となるため、止血管理には、第VIIIIX)因子を経由せずに、主に外因系凝固因子を活性化させて凝固反応を促進するバイパス止血療法が用いられる。
  • 一般的な止血治療の方法については、日本血栓止血学会から「インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版 1)」「インヒビター保有先天性血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版 2)」、およびその補遺版が発行されている。
    https://www.jsth.org/wordpress/guideline/
  • 搬送された血友病患者の止血治療の方針決定には、血友病AかBか、インヒビターの有無、普段止血に使用している製剤名と単位数、血友病Aの場合はFVIII機能代替二重特異抗体製剤エミシズマブ(商品名:ヘムライブラ®)を使用しているか否か、そして通院施設、および患者の体重などの情報が必要である。搬送患者が血友病と判明した際には、最初にこれらを確認する。
  • 患者は緊急時に提示する2つ折りの緊急時患者カード(下図)を所持している場合があり、本カードには患者の止血治療に必要な情報が記載されている。
    外側
    内側
  • 血友病の止血治療における第一選択製剤は図3のアルゴリズムを参考に決定する。
第VIII因子製剤補充療法 第VIII因子製剤補充療法 バイパス止血療法あるいは高用量第VIII因子製剤によるインヒビター中和療法 ノボセブンHI®によるバイパス止血療法あるいは高用量第VIII因子製剤によるインヒビター中和療法 第IX因子製剤補充療法 バイパス止血療法あるいは高用量第IX因子製剤によるインヒビター中和療法
図3.血友病の止血治療における第一選択製剤
ヘムライブラ®:FVIII機能代替二重特異抗体製剤 エミシズマブ
ノボセブンHI®:遺伝子組換え活性型血液凝固第VII因子製剤
  • インヒビターのない血友病患者の出血症状に対する凝固因子製剤の初回投与量は、出血の程度によって異なり、おおむね表2の投与量を参考に投与する。重症の出血にて搬送された場合や、大手術が必要な場合は、まず因子活性を100%程度に上昇させる因子量(血友病A:第VIII因子製剤を50単位/kg 血友病B:第IX因子製剤を100単位/kg)を投与する。止血を維持するためには、これに引き続き一定時間ごとに凝固因子製剤の繰り返し投与(連続投与)が必要である。
  • インヒビターのない血友病患者の止血効果のモニタリングは、APTT及びFVIII(FIX)活性を用いて行う。
  • ヘムライブラ®を使用中の血友病A患者は、APTTが極端に短縮し正常範囲となるが、実際の凝固機能は第VIII因子活性に換算して15%程度であるため、出血症状の止血治療には不十分である。したがって出血時や観血的処置時には必ず凝固因子製剤を使用した治療が必要である。
  • ヘムライブラ®を使用中のインヒビターのない血友病Aには、ヘムライブラ®非使用例と全く同様の第VIII因子製剤補充療法を実施する。ヘムライブラ®を使用中のインヒビター保有血友病Aにも、ヘムライブラ®非使用例と同様にバイパス止血療法を実施するが、バイパス止血製剤の選択や投与量が異なるため、注意が必要である。
表1.ヘムライブラ®使用の有無と止血治療
ヘムライブラ®非使用例 ヘムライブラ®使用例
インヒビターのない血友病A FVIII製剤補充療法 ヘムライブラ®非使用例と同じ
VIII因子補充療法
インヒビター保有血友病A バイパス止血療法 ヘムライブラ®非使用例とは製剤選択や投与量が異なる
バイパス止血療法
  • インヒビター保有血友病A患者の出血症状の治療は、患者のインヒビターの力価や反応性、ヘムライブラ®の使用の有無によって、製剤の選択が変わる場合がある。ヘムライブラ®を使用中の患者は、緊急時患者カードとは別にヘムライブラ®連絡カードを所持しているので、記載されている施設に必ず連絡を取り、治療方針を問い合わせる必要がある。どうしても治療の詳細が不明な場合は初回に遺伝子組換え活性型血液凝固第VII因子製剤(商品名:ノボセブンHI®)を90μg/kg投与する。
  • インヒビター保有血友病B患者の出血症状の治療も、患者のインヒビターの力価や反応性によって製剤の選択が変わる場合がある。どうしても治療の詳細が不明な場合は初回にノボセブンHI®を90μg/kg投与する。
  • 血友病治療について不明な点がある場合は、日本血栓止血学会血友病診療連携委員会のブロック拠点病院、地域中核病院などに問い合わせるとよい。
    血友病診療連携委員会のWEBサイト→https://www.jsth.org/wordpress/com/jhnc/

疾患概要

 血友病は、血液凝固第VIIIIX)因子の量的、質的欠乏に基づく遺伝性出血性疾患である。第VIII因子(FVIII)欠乏症を血友病A、第IX因子(FIX)欠乏症を血友病Bと呼び、いずれも因子活性が1%未満のものを重症、1~5%のものを中等症、5%以上のものを軽症としている。

 重症血友病は出産時の頭蓋内出血や、幼児期から関節内、筋肉内出血などの出血症状によって、大部分が小児期に診断される。しかしながら、因子活性の比較的高い中等症、あるいは軽症の場合は出血症状が顕著ではなく、思春期あるいは成人期の抜歯や外傷、手術時の止血困難、あるいは偶然確認された凝固検査異常をきっかけに診断される場合もある。

主要症状

 血友病の出血症状は深部出血症状(疼痛、血腫形成)を中心とし、関節内出血が最も多く、次いで筋肉内出血が多い。血友病Aと血友病Bの間に大きな症状の差異はない。

 関節内出血を繰り返すと、関節滑膜に慢性炎症が起こり(慢性滑膜炎)、次第に関節軟骨から骨へと損傷が拡大して(血友病関節症)、最終的には関節拘縮を来す場合がある。

 近年の治療の進歩により若年の血友病患者は関節障害の進行が抑制されている症例が多いが、40歳以上の血友病患者はすでに複数の関節に障害が進行している例が多い。

 また、一部の症例は凝固因子の補充により、投与されたFVIII(FIX)を宿主の免疫機構が異物として認識し、FVIII(FIX)に対する同種抗体(インヒビター)が産生されることがある。インヒビターが産生された場合は、通常の補充療法が無効となるため、止血治療が困難となり、より関節障害が進行しやすくなる。

救急搬送される可能性と搬送原因

 日常的に発症する関節内出血、筋肉内出血、皮下・粘膜出血の大部分は、凝固因子製剤の在宅自己注射、またはかかりつけ医による止血治療によって管理されているため、これらの特に誘因のない自然出血によって救急医療機関に搬送される可能性は少ない。ただし、腸腰筋出血は出血量も多く、周囲の血管や神経の圧迫症状をきたす恐れがあり、気道周囲(咽頭や喉頭など)の出血は気道閉塞による窒息の恐れがあるため、いずれも入院にて十分な止血治療を実施する必要がある。

 血友病患者が救急搬送される可能性がある出血症状としては、脳出血、食道静脈瘤や他の消化管疾患からの消化管出血、あるいは大きな外傷による出血、医療機関における観血的処置後の止血困難などが考えられる。

診断

 止血スクリーニング検査(血小板数、プロトロンビン時間:PT、活性化部分トロンボプラスチン時間:APTT、フィブリノゲン、フィブリン分解産物:FDPもしくはD-dimer)において、APTT単独の延長が認められた場合に、FVIII・FIX活性を測定し、因子活性が40%未満の場合、血友病と診断する。von Willebrand病との鑑別のため、VWF抗原量、VWF活性(リストセチンコファクター活性)も同時に測定する必要がある。

 また、ループスアンチコアグラントや後天性血友病Aなど凝固反応を阻害する抗体による凝固障害を否定するため、ループスアンチコアグラントやFVIIIインヒビターの測定も必要である。