出血・観血的処置時の対応 1)

1)概要

 VWDの止血治療は、低下したVWF及びFVIIIを補正することにより、出血の治療、および観血的処置時の出血を抑制することである。現在、我が国においてVWF及びFVIIIの補正に使用可能な薬剤は、血管内皮細胞から内在性のVWFを放出させる酢酸デスモプレシン(l-deamino-8-D-arginine vasopressin: DDAVP)と、経静脈的にVWFを補充するVWF含有製剤の2種類である。

 DDAVPは症例によって効果の違いが著しく、一部の症例には無効、一部の症例には禁忌となるため、救急医療現場における出血の治療や観血的処置時には、VWF含有製剤を用いる方が確実な止血が可能である。

 一般的なVWDの診断と治療に関しては、日本血栓止血学会から「von Willebrand病の診療ガイドライン 2021年版 1)」が発行されている。
https://www.jsth.org/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/von-Willebrand病の診療ガイドライン2021年版.pdf

 搬送されたVWD患者の止血治療の方針決定には、普段止血に使用している製剤名と単位数、通院施設、および患者の体重などの情報が必要である。搬送患者がVWDと判明した際には、最初にこれらを確認する。

 患者は緊急時に提示する2つ折りの緊急時患者カードを所持している場合があり、本カードには患者の止血治療に必要な情報が記載されている。

 出血の治療方針や観血的処置時の出血予防方法については、可能な限り通院施設の主治医に連絡し、製剤の選択や投与量について相談するとともに、本診療ガイドや「von Willebrand病の診療ガイドライン 2021年版 1)」を参考にした上で決定する。

2)VWF含有製剤

 VWF含有製剤には、ヒト血漿由来VWF含有第VIII因子濃縮製剤(pdVWF/FVIII製剤)(乾燥濃縮人血液凝固第VIII因子 商品名:コンファクトF注射用® 製造販売:KMバイオロジクス株式会社・販売元:一般社団法人日本血液製剤機構)と遺伝子組み換えVWF製剤(rVWF製剤)(ボニコグ アルファ 商品名:ボンベンディ静注用1300® 製造販売元:武田薬品工業株式会社)の2種類がある。両者の違いはFVIIIを含有するか否かで、コンファクトF®はVWFとFVIIIを同時に補充することが可能であるが、ボンベンディ®はVWF単独製剤であるため、FVIIIも至急に補充する必要がある場合は、FVIII製剤を併用する必要がある。(ボンベンディ®を単独投与した場合は、患者本人の内在性FVIIIが安定化され、FVIII活性は徐々に上昇し、24時間後にピークとなる)したがって、救急搬送を必要とする重篤な出血の初期治療には、コンファクトF®の方が利便性が高いと考えられる。

 なお、コンファクトF®はVWFとFVIIIの含有量が大きく違い、VWFがFVIIIの2.4倍含有されている。製剤の名称はFVIIIの含有量を基準に記載されているが(例:コンファクトF注射用1000®=FVIIIが1000単位含有されている)、製品のパッケージにはVWFとFVIIIの両方の単位数が併記されているため、投与量は必ずVWFの単位数(例:コンファクトF注射用1000®のVWF含有量は2400単位)を基準に決定する。

 コンファクトF®とボンベンディ®の投与量の目安を表7、8に示す。

表7.出血・観血的処置時のコンファクトF®静注用の投与量
  目標因子活性 初回投与量 維持投与量 投与期間
大手術 >100% day1
>50% day2~
50~60IU/kg 20~40IU/kg
8~24時間毎
7~14日
小手術 >50~80% day1
>30%~50% day2~
30~60IU/kg 20~40IU/kg
12~48時間毎
3~5日
抜歯・侵襲処置 >50% 20~40IU/kg 単回投与 1日
分娩・産褥
(VWF活性・FVIII活性が50%未満の場合)
>100% day1
>50% day2~
40~50IU/kg
20~40IU/kg
12~48時間毎 3~5日
自然出血
(軽症~中等症)
>50~80% day1
>30% day2~
20~40IU/kg 20~40IU/kg
12~48時間毎
1~3日
自然出血
(重症)
>100% day1
>50% day2~
50IU/kg 20~40IU/kg
8~24時間毎
7~10日

投与量はFVIII活性ではなくVWF活性を基準に投与すること。

表8.出血・観血的処置時のボンベンディ静注用1300®の投与量
出血の種類 初回投与量 初回以降の投与量
(または、臨床的に必要とされる期間)
軽度出血
(鼻出血、口腔出血、月経過多など)
40〜50IU/kg 40〜50IU/kgを8〜24時間ごと
大出血
(重度または難治性の鼻出血、月経過多、消化管出血、中枢神経系の外傷、関節出血、外傷性出血など)
50〜80IU/kg 40〜60IU/kgを約2〜3日間、8〜24時間ごと
手術の種類 血漿中目標ピーク値
VWF:RCo(%) FVIII:C(%)
小手術 50~60 40~50
大手術 100 80~100

参考)VWD症例において、目標因子活性を達成するために必要な投与量は下記の式で計算される。

VWF必要量(IU)=
(VWF活性の目標レベル(%)―VWF活性のベースラインレベル(%))×体重÷2

FVIII必要量(IU)=
(FVIII活性の目標レベル(%)―FVIII活性のベースラインレベル(%))×体重÷2

 VWFの血中半減期は約16時間であるため、中等度以上の出血症状の場合は、VWF含有製剤を初回投与後、止血の維持のために一定の期間8~24時間毎に(連続投与)する必要がある。

 個々の症例により、VWF およびFVIIIの上昇値や半減期は異なるため、初回投与直後、および連続投与・持続投与中には適時これらを測定し、出血の状況に応じた因子活性が得られているかを確認した上で、投与量を調整する必要がある。