出血・観血的処置時の対応

総論

概要

 血友病の出血・観血的処置時の止血治療の基本は、FVIII(FIX)製剤を静脈注射し、欠乏した因子の補充を行うことである(補充療法)。ただし、インヒビター保有例に対しては、これらのFVIII(FIX)製剤は無効となるため、止血管理には、FVIII(FIX)を経由せずに、主に外因系凝固因子を活性化させて凝固反応を促進するバイパス止血療法が用いられる。

 一般的な止血治療の方法については日本血栓止血学会から「インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版」1)「インヒビター保有先天性血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版」2)、およびその補遺版 3) 4) が発行されている。(補遺版は2013年以降に発売された新規治療薬について記載したもので、治療の基本的内容は2013年改訂版に記載されている)→https://www.jsth.org/wordpress/guideline/

 ただし、これらのガイドラインの内容は、2013年時点で販売されていた半減期標準型製剤を用いた場合の投与量、投与間隔であり、その後に発売された半減期延長製剤を用いて治療する場合は、主に投与間隔が異なるため、各薬剤の添付文書を参照する必要がある。

 また、最近は出血の予防を目的とした凝固因子代替製剤や凝固再均衡(Re-balance)療法製剤といった非因子製剤(Non-factor製剤)の開発が進んでいる。

 2018年に発売されたFVIII機能代替二重特異抗体製剤エミシズマブ(商品名:ヘムライブラ®)を使用中の血友病A症例については、止血治療がヘムライブラ®非使用例と一部異なる点があるため、「血友病患者に対する止血治療ガイドライン:2019年補遺版 ヘムライブラ®(エミシズマブ)使用について」5) や、中外製薬の医師向けサイト→https://chugai-pharm.jp/contents/ca/055/001/002/などを必ず参照していただきたい。

 2024年には、凝固再均衡(Re-balance)療法製剤コンシズマブ(商品名:アレモ®)が発売された。アレモ®は、凝固制御因子の一つであるTissue Factor Pathway Inhibitor(TFPI)の作用を抑制するモノクローナル抗体製剤で、適応はインヒビターを保有する血友病A/B症例であるが、主にインヒビターを保有する血友病B症例に使用される製剤と考えられる。

 ヘムライブラ®やアレモ®による出血予防を実施中のインヒビター保有血友病に発生した破綻出血のバイパス止血療法には、血栓症の発生リスクが懸念されるため、使用する製剤の選択や投与量が異なる場合があり、注意を必要とする。

 搬送された血友病患者の止血治療の方針決定には、血友病AかBか、インヒビターの有無、普段止血に使用している製剤名と単位数、血友病Aの場合はヘムライブラ®を使用しているか否か、そして通院施設、および患者の体重などの情報が必要である。搬送患者が血友病と判明した際には、最初にこれらを確認する。患者は緊急時に提示する緊急時患者カードを所持している場合があり、本カードには患者の止血治療に必要な情報が記載されている。

 血友病の止血治療は、近年数々の新しい選択肢が追加され、かなり複雑化しているため、出血の治療方針や観血的処置時の出血予防方法については、可能な限り通院施設の主治医に連絡し、製剤の選択や投与量について相談するとともに、本診療ガイドや上記ガイドラインを参考にした上で決定することが重要である。

 本診療ガイドでは出血・観血的処置時の対応について、この概要の後に、インヒビターのない血友病に対する止血治療(総論)、インヒビターのない血友病A(ヘムライブラ®非使用例)、インヒビターのない血友病A(ヘムライブラ®使用例)、インヒビターのない血友病B、インヒビター保有血友病に対する止血治療(総論)、インヒビター保有血友病A(ヘムライブラ®非使用例)およびインヒビター保有血友病B、インヒビター保有血友病A(ヘムライブラ®使用例)、に分けて記載する。